林間のロンド 稜線上のアリア

3月、里山の雪が融けるのを待ちかねたように早春の花たちは目覚め、一斉に舞い始めます。そして、新緑が山全体を覆う頃、彼女たちはどこへともなく消え去ってしまいます。そんな彼女たちは春の妖精、スプリング・エフェメラルと呼ばれます。葉が茂って日光がさえぎられる前のわずかな時間、林床で舞い遊びます。
林間の舞踏会が終盤を迎える初夏、濃くなった緑のカーテンに追われるように、花たちは新天地を求めて山頂を目指します。しかしそこは強風吹きすさぶ過酷な世界、しなやかで強靭な肢体を持つバレリーナたちだけが舞うことができるステージです。
(注: 画像をクリックすれば拡大して見ることができます)
 大三角草
 (オオミスミソウ)
 別名: 雪割草

里山の雪が融けるか融けないうちに、真っ先に咲きだす早起き妖精。別名通り、消えかけた雪の下から頭をもたげます。
変異の度合いが高く、さまざまな形や色の花をつけます。
佐渡や新潟の海岸沿い、能登半島猿山岬など日本海側で自生しますが、園芸種も多く出回っています。

ちなみに大三角草の名の由来は、三方にとがった葉の形から来たものです。

 (新潟市角田山 4月中旬)

       

雪割草変化のあで姿。
いずれも角田山で。画像をクリックで拡大
こちらは相模原市片栗の里で。3月下旬

雪割草よりもっと早起きの妖精もいます。

  福寿草(フクジュソウ)

江戸時代は縁起の良い花として正月(旧暦)に咲かせていました。陽だまりの石の前などな熱のあるところでは早く咲きます。蜜は出しませんが、この暖かそうなベッドで虫たちを誘います。

地震被災地の仮設住宅に春の花の写真を贈りましたが、その中で最もリクエストの多かった花です。被災地の方がどれほど春を待ちわびているか痛いほどわかりました。


     (立川市昭和記念公園 1月下旬)

  節分草(セツブンソウ)

立春の前日が節分。この日を持って冬とサヨナラ。
といっても「暦の上では…」と枕詞をふられ、決して
春が来るわけではありませんが、気持ち少し暖かく
なったような花です。
石灰岩の多い土壌を好みます。セメント材料の採石場
のある秩父などでわずかに自生しています。
いつもは2月中旬から咲き始めますが、今年は寒さが
厳しかったため開花が遅れました。

(埼玉県小鹿野町 3月中旬)

「水温(ぬる)む」という言葉は、俳句や時候の言葉としてよく使われますが、体で実感しているのがこの花。花とはいえないユニークな姿は座禅中の達磨大師か修道僧姿の道化師フォルスタッフ。雪解けの水が流れ込む湿地に咲く水芭蕉とはいとこ同士ですが、こちらはコミカル妖精です。

 座禅草(ザゼンソウ)

花は中の黄色い粒。
外側の覆いは仏炎苞で、
座禅堂に例えられます。
里芋の仲間です。

(前橋市赤城山山麓
   3月中旬)

春分を過ぎると陽光は輝きを増し、太陽の光は葉を着ける前の枝の間を通って林床へ降り注ぎます。太陽の光と熱を受けて、花々は冬の眠りから目覚め、一斉に輪舞を始めます。
  
  片栗(カタクリ)

揚げ物を作るときに使う片栗粉は、かつてはこの鱗茎から採ったものですが、現在はジャガイモやサツマイモの澱粉で作られています。
ユリ科の多年草で、開花するまでに6~7年かかります。

花弁の中心にある濃い色の部分は蜜標で、虫たちに蜜があることを知らせます。また、種も甘い汁を出して蟻を誘い、種を巣へ持ち帰らせることで勢力を広げます。


(相模原市片栗の里 3月下旬)
 
片栗の花弁は陽光が当たると反り返ります。このイナバウアーで虫たちは蜜を吸うのが容易になります。
蜜を吸っているのが岐阜蝶。他の蝶たちが孵化して成虫になるする前に里山に現れます。準絶滅危惧種(VU)。

(新潟県三条市 粟が岳)

岐阜蝶(ギフチョウ)

以前は「幻の・・・」と枕詞のついたこの蝶も、
保護活動のお陰で春の山林で
よく見かけるようになりました。


(新潟市角田山)
  黄花片栗

10年前、ニューヨークの南を流れるハドソン河の河岸段丘の上で、野生のこの花を見ました。日本の黄花片栗はすべて、輸入園芸種です。

(相模原市片栗の里 4月下旬)

 
 猩々袴(ショウジョウバカマ)    

片栗と同じユリ科の多年草。
花が中国の伝説上の動物、猩々に似ていることから。猩々は水中に住み、酒好きでいつも赤い顔をしています。下は能の「猩々」です。
(新潟県弥彦村 3月中旬)


常盤碇草(トキワイカリソウ) (相模原市片栗の里 4月中旬)
碇草は、花弁の距が突出た錨の形から名付けられたもの。メギ科の碇草は、秋に青々とした葉をつけますが、冬いったん枯れ、春先に薄赤紫の花をつけ、その後葉が生えます。常盤碇草は、常盤の名の通り、冬も葉は枯れずにそのままついています。主に日本海側の里山で見られます。(角田山でも会いました)
碇草は漢方薬で「淫羊霍」。なにか淫らな感じの名前ですが、その通り。精力剤です。ただし、羊用ですが…。

岩団扇(イワウチワ)

岩梨(イワナシ)

登山道のわきにひっそりと咲いています。気をつけて見ないと見過ごしてしまうくらいのサイズ(1cm)です。
左の岩団扇と同じ、ツツジ科イワウメ属。果実は梨のような味がします。

(至仏山 7月上旬)
葉の形が団扇に似ているところからつけられた名前です。高山植物の岩梅(イワウメ)の仲間です。「岩・・・」と付く花は結構多く、岩鏡、岩梨、岩下野、岩桔梗、岩銀杏など。名前からして高山、亜高山の花が多いようです。 
  (新潟県三条市粟が岳 5月下旬)
雪椿(ユキツバキ)

「柳に雪折れなし」は、柔軟な樹木は雪の圧力でも折れることはない、という人生訓的な例えですが、この雪椿も豪雪に埋まっても枝が折れることなく雪解けとともに枝が立ち上がり、太陽のような花を開きます。

(新潟県三条市粟が岳 5月下旬)

姫小百合(ヒメサユリ)
日本には数多くの野生のユリが咲きます。代表的なヤマユリ、スカシユリ、オニユリ、クルマユリ・・・。また、カタクリもショウジョウバカマもユリの仲間です。その中でこの姫小百合は新潟県、山形県、福島県の県境付近の雪深い地域でしか見られません。花の色の鮮やかさと香りのよさで、ユリの王女でしょうか。
それもそのはず、このユリは別名、乙女百合(オトメユリ)とも呼ばれます。若き日の「吉永小百合」を彷彿とさせます。

沖縄戦で散っていった女学生部隊の名前ともなった「ヒメユリ」はスカシユリの仲間で、朱色の花をつけます。沖縄から千葉までの太平洋岸で多く見られます。


(新潟県三条市高城山 5月下旬)

昨年逝った母に捧げる一花です。

  燕万年青(ツバメオモト)

これもユリ科の花です。上の姫小百合と比べると花穂も小さく、地味っぽいですが、薄暗い林間の道で見かけると、小妖精に出会った気がします。
葉の形がオモトに似ていることからこの名がつけれらましたが、なぜツバメなのかははっきりしていません。
鷺草、朱鷺草、千鳥など鳥の名の付いた花は数多くありますが、多くはその形や色からの連想です。

(北海道礼文島西海岸 6月上旬)
  桜草擬(サクラソウモドキ).

桜草の仲間ですが、桜草のように花弁が平らたく開かず、竜胆のように壺状です。また、稜線や岩場の平たん部でなく、水気の多い沢沿いにひっそりと生息しています。

可憐な花ので、「モドキ」などと言わず、もっと良い名をつけてやりたいものです。

(北海道礼文島西海岸 6月上旬)
 三葉黄蓮(ミツバオウレン)

雪が消えると真っ先に輝きだす地上の星々。白い花弁のように見えるのは実は萼。花は中央の黄色いペタル状の部分です。小岩鏡(コイワカガミ)とよく混生します。

(新潟県・群馬県万太郎山 6月下旬)




   小岩鏡(コイワカガミ) ⇒


礼文敦盛草(レブンアツモリソウ)   (北海道礼文島浜中 6月上旬)
礼文島でしか見られない敦盛草。通常のアツモリソウは濃い紫色ですが、これはクリーム色。
一の谷の戦いで熊谷直実に打ち取られた平家の公達、平敦盛が付けていた母衣(ホロ:矢を防ぐ大きな布袋)を
花弁に見立てて命名されました。ちなみにクマガイソウも同じような母衣を持っています。
以前は礼文島のどこでも見られたのですが、盗掘のため激減。いまは保護区でしか見られません。
この花は蜜を出しません。ではどうやって受粉するのか・・・実は虫(ニセハイイロマルハナバチ)を騙すのです。
ニセハイイロマルハナバチは同じような色の根室塩竃(ネムロシオガマ)と間違えて花弁の中に入り込みますが、
出るとき、背中に花粉が付きます。そして、また間違えて別の礼文敦盛草に潜り込んだときに受粉します。
近くにカラフトアツモリソウも咲きますが、混粉を避けれため、雄蕊は去勢されてしまいます。
  布袋敦盛草
  
(ホテイアツモリソウ)

唇状の花弁が布袋さんのでっぷりした腹のように見えるところからこの名がつきました。釜無山の付近で自生していたことから釜無布袋敦盛草ともいわれますが、盗掘で激減し、今では入笠山の保護区(動物園の檻の中のようです)でしか見られません。
秩父の十文字小屋では栽培していた株が心ない登山者に盗まれました。下界へ持っていっても育たないのに…。
ファッションが大手を振って歩いている最近の登山ブーム。その分、マナーが置き去りになっています。人の少ないコースを探すことが多くなりました。

(山梨県入笠山 6月下旬)
 敦盛草(アツモリソウ)

実は礼文島でも普通のアツモリソウが咲いていました。
以前は全島で見られたのですが、アホウドリと同様、
無警戒であったっため盗掘で今や数株しか残っていません。
そのうえ、保護対象になっていないので、風前の灯です。

ほっこりとしていて、どことなく雀の子似ていて、ユーモラスですね。

(北海道礼文島 6月上旬)

   黄花敦盛草(キバナアツモリソウ)

敦盛草には数種類ありますが、この黄花敦盛草は
唇弁が小さく、どちらかと言うと食虫植物の靫葛
(ウツボカズラ)に似ています。

(山梨県入笠山 6月下旬)
鈴蘭(スズラン) 別名:君影草(キミカゲソウ)
街で見かける鈴蘭はたいてい輸入園芸種のドイツ鈴蘭。山地に生えている野生の鈴蘭は小ぶりで、花数も少なく、葉の裏側に(君の影で)つつましく咲きます。
この鈴蘭は、礼文島の西海岸(アナマ岩)の崖の上に咲いていた最北限の花です。
(北海道礼文島 6月上旬)

  ドイツ鈴蘭  (入笠山)

(グラマーな西洋娘です)

  リンネ草

「輪廻は廻る尾車の・・・」のリンネではありません。
中学生の頃、「リンネの法則」を習ったと思いますが、スウェーデンの植物学者のリンネから由来しています。彼が好きだったのがこの花。長さ5mmくらいの小さな花ですが、仲良く2つの花が付きます。夫婦和合の花です。
生息地は、森林地帯を抜けた這松林の下の登山道。
ところで…「リンネの法則」って何だったか覚えていますか?

(北海道大雪山化雲岳 7月下旬)

ここまで登れば稜線(尾根)はすぐそこ。遮るもののない風景と陽光、そして疾風渦巻く世界です。
花たちは岩陰の舞台で、風をパートナーにして華麗なダンスを披露してくれます。

細葉雛薄雪草(ホソバヒナウスユキソウ)
黄色いティアラを着けたオデット姫、「白鳥の湖」のプリマです。とても繊細で可憐です。風に揺れる様はまるで魔女に翻弄される白鳥たち。
アルプスに咲くエーデルワイスに近い種類ですが、日本では至仏山と谷川岳でしか見まられません。
(群馬県至仏山 7月上旬)


  田虫葉(タムシバ)  
  別名:匂辛夷(ニオイシデコブシ)  
  
田虫とは変な名前ですが、水虫や陰菌の仲間でなく、「噛む柴」がなまったもの。葉を噛むと甘い香りがします。木蓮や辛夷(コブシ)の仲間で、春いちばんに咲く木の花。遠くから見ると消え残った雪のよう。稜線上で春の幟印として白い花をなびかせます。
全国の山地で見られますが、西日本は高木になり、東日本のものは低木です。

(新潟県三条市粟が岳 5月下旬)



なにも高い山に登らなくても、森林限界より上の光景を見ることができます。高緯度ほど、そして風が強いほど森林限界は低くなります。北海道の礼文島西海岸では海岸線近く(海抜0~100m)で本州の3000mクラスの山岳に匹敵する稜線光景が見られます。
  礼文花忍(レブンハナシノブ)

花忍には何種類かありますが、いずれも絶滅危惧種です。礼文島以外には釧路(クシロハナシノブ)、北・南アルプス(ミヤマハナシノブ)、そして九州阿蘇山のハナシノブ。特に、阿蘇山のハナシノブは「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」の第1号として認定され、もっとも厳しい絶滅危惧IA類に指定されています。

(北海道礼文島林道コース 6月上旬)
      蝦夷躑躅(エゾツツジ)

本州のツツジと異なり、まるで地上からぽっと咲いた草のようです。しかし、れっきとした樹木です。風が通り抜ける丘や崖の上でよく見かけました。
蝦夷の名がついていますが、東北地方の山(早池峰、岩手山などで見られるそうです。



 (北海道礼文島礼文滝コース 6月上旬)

                     根室塩竃(ネムロシオガマ)
漁港の代表格が2港揃ったような名前ですが、港とは関係ありません。(もっともこの花は、西上泊という漁港の見える丘の上に咲いていましたが…)
ニセハイイロマルハナバチがこの花と間違えて礼文敦盛草の受粉を手助けしてしまうのですが、色は似ているものの形は違いますね。虫の目には同じに見えるのでしょうか?

(北海道礼文島西上泊 6月上旬)

塩竃の花の色は、ピンク~赤紫ですが、この花と蝦夷塩竃は白で、大雪山のみに生える黄花塩竃はその名の通り黄色です。
黄花塩竃 
        (北海道大雪山小泉岳 7月下旬)
      
現在、絶滅する恐れのある植物として23種、そのうち特に重大な特定国内希少野生動植物種7種が指定されています。
先に掲載したレブンアツモリソウ、ホテイアツモリソウ、アツモリソウ、ハナシノブ、そしてアマミデンダ、オキナワセッコク(この2種はまだ見たことがありません)、そして日本第2の高山、北岳の頂上付近でのみ見られるキタダケソウ(北岳草)。希少野生種の中で最も高い(3000m以上)ステージで清楚な舞を見せてくれます。           
北岳草(キタダケソウ)

(山梨県北岳 6月下旬)


北岳草の舞台
頂上(3193m)直下の東斜面。後に見える山は第4位の高峰 間の岳から三峰岳にかけての稜線。

             深山金梅(ミヤマキンバイ)  ⇒

稜線上で出会う黄色い花には、キンポウゲ科の深山金鳳花、信濃金梅、スミレ科の高根菫、黄花駒の爪などがありますが、これらはすべて草。深山金梅は「梅」が表す通りバラ科で、樹高5cmながら立派な木です。この仲間には、雉筵(キジムシロ)、稚児車(チングルマ)、長之助草などがあります。強風吹きすさぶ稜線では風雪に身をかがめることができる花だけが生き延びられます。

お山の豌豆(オヤマノエンドウ) ↓

(北岳~中白根山尾根 6月下旬)

(北岳小太郎尾根 6月下旬)
 岩梅(イワウメ)

林間の岩団扇や岩梨と同じツツジ科の仲間。岩陰に5mmくらいの小さな花がびっしりと付きます。


(北岳 6月下旬)

北岳もそうですが「花の名山」と呼ばれる山に谷川岳、尾瀬至仏山、早池峰山(岩手県)、アポイ岳(北海道)、夕張岳などがありますが、その共通項は「蛇紋岩」です。蛇紋岩はマグネシウムを多量に含む超塩基性の鉱物で、この影響で植物の吸水能力が低下するため通常の植物は生育できず、こうした環境に適合できる固有種だけが残るため、珍しい花のある山となります。昨年は早池峰山、アポイ岳を訪れましたが、今年は梅雨の合間に上越国境の谷川岳、至仏山を訪ねました。
  尾瀬草(オゼソウ)

クリーム色の小さな花が
穂状につきます。
至仏山と谷川岳にだけ咲きます。

(至仏山 7月上旬)

中央のピンクの花は姫石楠花。
  雲居碇草(クモイイカリソウ)

ペアのラインダンスを踊るのは山地に咲く碇草の高山型。アン・ドウ・トロワ、アン・ドウ・トロワ・・・花弁の先が黄色で葉の縁が茶色です。

(至仏山 7月上旬)
  高嶺塩竃(タカネシオガマ)

赤紫色の花を持つ塩竃には、深山塩竃、四つ葉塩竃、巴塩竃が
ありますが、高嶺塩竃は高山植物としては珍しい1年草です。
深山塩竃と非常に見分けにくい(葉の切れ込みが深山塩竃ほど
深くない)


(至仏山 7月上旬)
 
 尾上蘭(オノエラン)

「オノエ」=「尾根の上」の由来のように、谷川岳と万太郎山の間の尾根道でソロを舞っていました。白山千鳥と同じラン科。
(谷川岳~万太郎山 6月下旬)

     鶉葉白山千鳥(ウズラバハクサンチドリ)    
  鶉葉は葉に黒点がある
      (北海道富良野岳 8月上旬)

高山植物には「白山」の名を冠するものが多数あります。「白山一花」「白山風露」「白山沙参」「白山石楠花」などなど。これは白山が花の宝庫であることと、早くから信仰対象として多くの人が登ってきたことによるものです。だが、なんといっても代表格は
        白山小桜(ハクサンコザクラ)
白山から飯豊山までの日本海側や上信越の多雪地帯の高山帯で、雪渓や雪田周辺の湿ったところに群舞します。小桜草には蝦夷小桜、陸奥小桜、礼文小桜、岩桜、雛桜、雪割草など近縁種が多数あります。

(いずれも谷川岳 6月下旬)


本州の高山植物は数株から多くて数十株の花が坪庭のように咲きますが、北海道の花畑では一つの種類の花が数百株から数千株(場合によっては数万株)群生するダイナミックな光景を見ることができます。土地も広大で熊や梟、鹿などの野生動物も大柄なところだけに花々ものびやかに舞い遊びます。
昨年、風雨のため途中で断念した大雪山縦走(赤岳~トムラウシ山)に今年は単独行で挑戦しました。
 (大雪山最深部の化雲岳のふもと、化雲平の花畑。ここに到達するには1泊2日の行程。チングルマ、エゾコザクラ、アオノツガザクラなどが咲き乱れる)
 
 蝦夷姫鍬形(エゾヒメクワガタ)

鍬形は鍬形虫のクワガタで、2本の雄蕊が兜の鍬形のように突き出しているところから名づけられたものです。

(大雪山銀泉台 7月下旬)
  蝦夷栂桜(エゾツガザクラ)

葉が、マツ科の栂の葉に似ていることから、また北海道の固有種であることからこの名が付けられました。クリーム色の青の栂桜との混交が多く、これも花球が丸いことから混交種だと思われます。

(大雪山忠別沼  7月下旬)
 後方の山は忠別岳北面。
竜胆は陽が当たると開花します。(なかには「お山の竜胆」のようにほとんど開かない花もありますが)。青く輝く真昼の星々です。
(大雪山高根が原 7月下旬)

立山竜胆(タテヤマリンドウ)
こちらは本州の竜胆。
(群馬県笠ガ岳 7月上旬)
利尻竜胆
(リシリリンドウ) 
 
  千島雲間草(チシマクモマグサ)

雲の中に咲く梅鉢型のの花。
本州には白馬岳と御岳にのみ見られる雲間草があります。
お店で売っている西洋雲間草とは別種の花です。

(大雪山白雲岳 7月下旬)
     千島栂桜(チシマツガザクラ) 

高山植物には「チシマ」の名前がついたものがたくさんあります。この上の「千島雲間草」「千島桔梗」「千島風露」など。これらは千島列島で初めて見つかったこと(千島栂桜は択捉島)に由来していますが、北海道や本州の高山でも見られるます。蝦夷栂桜とは名前が似ていますが、別種の植物です。

雄蕊のさまが、緑の苔の上の線香花火のようですね。

(大雪山高根が原 7月下旬)  
    岩髭(イワヒゲ)

岩稜帯は保水力が低いため、植物は蒸散を極力減らすため葉を針のように細くします。岩髭も葉が杉の葉のように細く、それがひげのように見えます。この花が咲いていたのはトムラウシ山の頂上付近。数年前に多数の遭難者を出した岩の山です。

(大雪山トムラウシ山 7月下旬)
大雪鳥兜(ダイセツトリカブト)

昔、アイヌは鳥兜の根から採った毒で熊狩りを行っていましたが、あの巨大な羆(ヒグマ)を倒せるだけの威力があります。
狂言の「附子(ぶす)」はこの鳥兜から採った毒のこと。
鳥兜は変異が容易に起きるため種類も多く、細葉鳥兜、北岳鳥兜など50種以上あります。花の名の由来は雅楽演者の帽子(鳥兜)に似ていることから。この演奏者は伶人(れいじん)と言いますが、鳥兜の近接種に伶人草(レイジンソウ)があります。

(大雪山五色岳 7月下旬) 後方の山は 忠別岳南面




伶人草(レイジンソウ)
(大雪山五色岳 7月下旬)

駒草(コマクサ) 
(大雪山高根が原 7月下旬) 後方の山は平が岳から忠別岳。その右に王冠型のトムラウシ山。

乾き、強風の吹く稜線部でもオアシスがあります。雪渓や雪田から融けた水が溜まった沼や高層湿原です。
その代表格は尾瀬ヶ原ですが、小さな水たまりであっても花々にはパラダイス。そして花を友とする虫たち、その捕食者の鳥たち、また、それを見る人間たちをともに潤してくれます。
 


  檜扇菖蒲(ヒオウギアヤメ)

昔、宮廷で使われた檜の薄板を重ねた扇が檜扇で、このアヤメの葉の出方が、その扇のようになっているための命名です。同じヒオウギアヤメでも緋扇菖蒲は別の花で、赤い花です。
ちなみにこの花は文仁親王妃紀子のお印。

(尾瀬ヶ原 7月上旬)

    沢蘭(サワラン)

日本特産のランで、湿原のミズゴケの中に自生します。
花の色から旭蘭(アサヒラン)の別名があります。


(尾瀬ヶ原 7月上旬)
  大葉の蜻蛉草(オオバノトンボソウ)

花の形(距の部分が長い)がトンボに似ていることから。
ラン科の花で、ツレサギソウ(連鷺)属という優雅な名前です。

(大雪山忠別沼付近 7月下旬)
  
  
深山茜トンボ

(成熟前で赤くなっていない)

山にトンボが飛び始める8月中旬になると、秋の気配があちこちで見られます。
風も涼しさを増し、花の釣鐘がカラン・コロンと鳴り始めます。

         白山沙参(ハクサンシャジン)
 (山形県鳥海山 8月中旬) 後方の山は鳥海山新山(左)と最高峰の七高山(右)  (山形県月山 8月中旬)


★東日本大震災被災者へのチャリティへのご協力、ありがとうございました。
前回、仮設住宅に入居中の被災者へ花の写真を送るためのチャリティ協賛をお願いしましたところ、12名の方からご協力のお申し出をいただきました。
お陰さまで7施設に21枚の写真を送ることができました。ありがとうございました。
送った花の写真は下記のURLにありますので、クリックしてご覧ください。
http://www.insite-r.co.jp/charity/charity1202_flower.htm

引き続き、春~秋の写真も送ってゆきたいと考えておりますので、皆様のご協力をお願いします。
1口(A3判1枚送料込み)3,000円で、寄贈者のお名前でお送りします。
お問合わせ・協賛については matsunaga@insite-r.co.jp まで。


★写真集『花想』をご覧になってください。
木佐聡希さんという写真家(歌人でもあります)がいらっしゃいました。昨年9月にパーキンソン病で亡くなるまでに身近にある野の花をレンズに取りこんでいらっしゃいました。歌人の心根と病への向き合いからでしょうか非常にリリカルな、そして存在感のある映像が納めてあります(下の写真をご覧ください)。写真は対象を写し取るものであると同時に自分(の内面)を写すことができることをこの写真集は語っています。
(病と対峙する彼女の矜持が表されているように思えます)
木佐聡希 写真集「花想」より

木佐聡希 写真集『花想』の詳細については以下のURLをご参照ください。1冊1890円です。
http://tabushi.cafe.coocan.jp/111005kisa-saki-kasou-PDFVersion.pdf

★お好きな写真を拡大プリントアウトします。
お気に入りの写真がありましたら、光沢紙にプリントアウトしてお送りしますのでお申し込みください。
A3判(新聞紙の半分): 額入(3,000円)、額なし(1,000円)
A4判(コピー用紙大) : 額入(2,000円)、額なし(500円)
六つ切り判(B5版大) : 額入(1,000円)、額なし(500円)    いずれも送料込(ただし国内のみ)
お申し込みは matsunaga@insite-r.co.jp まで。


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