他国と比べる罹患者数は少ないもの、新型コロナウィルスは終息の兆しが見えません。厄介なことに、人から人に感染する過程で変異し、感染力や感染対象が変わっているようです。このため、ワクチンなど有効な対策がなかなか見つかっていません。また、政府の対応も右往左往するばかり。強力に規制すべき時に国民の自主性に訴えたり、旅行(トラベル)キャンペーンのようにブレーキをかけるべき時にアクセルを踏んだりと場当たり的。とても来年オリンピック・パラリンピックが開催できるとは思えません。まさに「Go to Trouble(トラブル)」です。 新型コロナウィルスが出現した背景に、洪水や台風の災害被害の拡大と同様、地球温暖化があります。産業革命以降、人間の活動でエネルギー消費が急増し、自然が吸収できない量の炭酸ガスが排出されているためです。自動車やエアコン、給湯器など暮らしのちょっとした便利さがさらに温暖化に拍車をかけています。そしてその陰で多くの動植物が絶滅の縁に追いやられています。人類も近い将来、彼らに仲間入りしてレッドリストに載ることになるかもしれません。 そんな中、自粛解除の合間を縫って、また、テント泊と日帰り登山の三密回避で、北は北海道から南は四国まで初夏から晩夏の花を求めて旅しました。人間がもたらした豪雨や酷暑の逆境の中でも、野の花々は凛々しく、力強く、そして可憐に咲いていました。
本当なら巻頭の花は青いケシにしたかったのですが、新型コロナのお陰で海外へ行けなかったため、国内で野生のケシを探しました。国内で野生のケシには市街地の道端で普通にみられるオレンジ色のナガミヒナゲシ(長実雛罌粟)と阿片の取れるアツミヒナゲシ(渥美雛罌粟)がありますが、両種とも外来種です。 2012年に礼文島を旅した時、海岸近くの民家の庭先でこの花によく似た花を見ました。リシリヒナゲシなら標高の高いところにあるはずではと、気になっていました。今回の旅ではそれを確認する目的もありました。
ちょっと見ただけではその違いは判りません。目を凝らしてみると、リシリヒナゲシのほうが ●葉の先端部がやや丸く、剛毛が多い。●雌しべ柱頭のヒトデ状の筋が太い など の特徴がみられますが、遺伝子分析で調べない限り、正確なことは言えません。遺伝子分析を行った北大の研究者はリシリヒナゲシと低地のリシリヒナゲシモドキは明らかにDNA配列が違っていると報告しています。低地のリシリヒナゲシモドキはリシリヒナゲシと別のヒナゲシの交雑種でしょうか。 困ったことに、山頂部の崩落でリシリヒナゲシの自生地が大きく減少した時、島民が「島の観光資源を守ろう」と、低地のモドキの種を山頂部に蒔きました。「悪貨は良貨を駆逐する」。繁殖力の強いモドキは固有種のリシリヒナゲシを一層減らすことになってしまいました。その後、保護活動でモドキは駆除されつつありますが、その遺伝子は固有種にも伝わっていると思われます。人間の行為がこんなところでも自然を破壊しています。(もっとも、人類史は自然破壊史でもありましたが・・・) 上の写真は保護地で撮ったものですが、純粋なリシリヒナゲシでないかもしれません。土産物店(アマゾンでも)でリシリヒナゲシの種(モドキであろう)が販売され、酷暑の都市で開花しているという。もし、人類がウィルスで絶滅したら、後にどんな人類モドキが現れるのであろうか。 |
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「水なき山に熊住まず」 登った3座は熊出没情報もなく、お陰で熊ベルを鳴らさない静かな山行ができた・・・はずでしたが、人の方が多かった。コロナで山小屋が休業したため、日帰りで上れる山に集中したためです。お陰で登山口の駐車場は満杯。排気ガスによる環境負荷が心配です。 | |||||||||||||||||||||||||||
一方、東北や日本海側の山は「水ある」山で、花も多いが、熊も多い。登山口には必ずといっていいほど「熊注意」の警告板が立っていました。今回、新潟の御神楽岳で至近距離で熊を見ました。親離れしたばかりの子熊で、木に登って逃げてゆきましたが、近くに母熊がいたらと思うと背筋が寒くなりました。
ヤマジノホトトギス (山路の杜鵑草 ユリ科)
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岩手県と宮城県の県境に位置する栗駒山(岩手県では須川岳)は活動中の火山です。至る所で岩間から水蒸気を噴き出し、湯が川となって流れています。 2008年6月に発生した岩手・宮城内陸地震で崩落した山肌は今でも痛々しいが、植物たちは災害の痕跡を癒すかのように枝や葉を伸ばしています。山稜下の湿地帯では秋の到来を知らせるの花々が乱舞していました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イワショウブ (岩菖蒲チシマゼキショウ科) |
ウメバチソウ (梅鉢草 ユキノシタ科) |
エゾシオガマ (蝦夷塩釜 ゴマノハグサ科) |
エゾオヤマリンドウ (蝦夷御山竜胆 リンドウ科) |
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初夏、6月に入って新潟と福島の県境、奥只見の山、浅草岳と守門岳へ向った。日本有数の豪雪地帯だが、山頂部の雪もあらかた融け、花々が遅い春を謳歌していました。
6月下旬、梅雨に入る前に新潟県北部(下越)の二王子岳と御神楽岳を訪ねた。 ヒメサユリ(姫小百合 ユリ科) 牡丹が花の王なら、ユリは花の貴婦人。純白のユリは、聖母マリアに例えられ(マドンナ・リリー)、純潔の徴(しるし)となります。乙女ユリとも呼ばれるヒメサユリはかなり妖艶なプリンセスで、日本の固有種。新潟・福島・山形の県境の山間部にしか分布しません。 |
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二王子岳は飯豊連峰の展望台。山頂に登ると正面に雄大な山々がどっしりとした姿を見せます。
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7月上旬、梅雨の合間を狙って四国を巡りました。目的地は愛媛県中予の東赤石山と高知県の横倉山。 東赤石山はその名の通り、山が赤茶色の橄欖(かんらん)岩でできていて、土壌は塩基性です。このため、オトメシャジンなど特異な植物が生育します。麓には、今は操業していないが、別子銅山があります。 時期が早かったためオトメシャジンは見ることができませんでしたが、多くの初見の花と出会えました。 |
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横倉山は仁淀川沿いの800m足らずの山ですが、複雑な地質構造と亜熱帯性気候があいまって植物種が多いことで知られています。「日本植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎は隣町の佐川町出身で、若き日に植物採集のため何度も訪れた山。彼がここで採取した新種も多い。また、頂上には安徳天皇陵参考地や平家の武将たちを祭った神社もあり、源平のロマンを感じさせてくれます。 |
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ササユリ (笹百合 ユリ科) ヒメサユリはドレスの似合う陽気で若い女性のイメージがあるが、このササユリは和服姿のしっとりとした女性。浮世絵の美人画から抜け出してきたようだ。 生息分布は中部地方から西、九州・四国の山間部で、ヒメサユリとは競合しない。名の由来は葉が、笹の葉に似ていることから。この種は葉の縁に白い縁取りがあることからフクリンササユリ(覆輪笹百合)ともいう。 (横倉山 標高450m) |
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8月もお盆を過ぎるころになると、夏の花も終盤となります。その掉尾を飾ると共に、秋の嚆矢となるのがショウマ(升麻)。 ショウマには生薬となるものが多く、花ばかりでなく、根や茎まで癒し効果を持っています。 |
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レンゲショウマ (蓮華升麻 キンポウゲ科) 蓮華は仏の座る台座。お盆の頃咲くこともあって、仏教的なイメージを持つ。 東京多摩の御嶽山に群落がある。 (栃木県日光植物園) |
キレンゲショウマ (黄蓮華升麻 ユキノシタ科) レンゲショウマに似ていることからこの名がついたが、分類学的にはまったく別種。絶滅危惧種。 四国剣山の山頂近くにに群落がある。 東大植物園の分園である日光植物園は保護のため園地のかなりの面積を割り当てている。 (栃木県日光植物園) |
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海外に出かけなかったお陰で久しぶりに未踏だった百名山に登りました。これで97座の頂に立ち、残すは幌尻岳(北海道)、悪沢岳(南ア)そして富士山となりましたが、(元々ピークハンターでなく、花の撮影ついでにご挨拶に立ち寄る頂上でなので)急ぎはしないものの、コロナ禍が収まり、山小屋が利用できるようになればトライしたいと考えています。
次回は秋の花をお届けする予定です。
★ご報告: 特別定額給付金(一律10万円給付)の使途
前回の花便りで特別定額給付金を寄付にと、ご案内しましたが、給付金を受け取りましたので、以下の団体にそれぞれ5万円を寄付いたしました。
● 公益財団法人みちのく未来基金 (アルバイトができなくなった東日本大震災遺児の給付生への生活支援として)
● 公益社団法人円満井会 (金春流の若手能楽師の育成・生活支援として)
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