昨年(2020)に続き、今年もコロナ禍のためヒマラヤや中国で青いケシ探しができませんでした。ならば国内で最も人が足を踏み入れていない北海道・日高山脈へ。オリンピック疎開と称して、開催期間に合わせて出かけました。今回はガイドとサポートスタッフ(ポーター)のついた海外トレッキングスタイルで行いましたが、さすが日本の秘境、日高の山々はヒマラヤにも劣らぬキツ~~イ山行となりました。また、トレッキングの合間や終了後にラムサール条約に登録されている各地の湿原を訪ね、湿地や水辺の花々を観察しました。 もちろん、感染予防として市中でのマスク着用、テント使用や自炊などで極力人とのコンタクトを減らしたほか、ワクチン接種を済ませて出かけました。 酷暑の東京に帰ると、コロナの感染爆発。緊急事態宣言をいったん解除してまでオリンピック開催を強行した政府。その後すぐ再発出したものの、期間中の感染急増を見ると、「国民の命と健康を守る」という言葉が空々しく聞こえます。 |
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ラムサール条約に登録された釧路湿原を始め、北海道には多くの湿原がある。日本三大湿原はすべて北海道にあり、釧路湿原のほか、サロベツ原野、霧多布(キリタップ)湿原(別寒辺牛湿原という説もある)。一方、高層湿原では浮島湿原、松山湿原と雨竜沼湿原が三大高層湿原で、雨竜沼湿原は「北の尾瀬」と呼ばれている。 北海道に湿原が多いのは、枯れた植物が寒冷のため腐敗せず、泥炭化するためである。今や大都市の札幌もかつては広大な湿原であった。 |
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ウリュウコウホネ(雨竜河骨:スイレン科) (Nuphar pumila var. ozeensis) 雨竜沼湿原の固有種。柱頭盤が紅色。学名にOzeが付いていることから分かるようにオゼコウホネの一品種だが、子房の色が異なり、赤い。 |
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クガイソウ (九蓋草:オオバコ科) (Veronicastrum japonicum) 輪生する葉が9段に見えるところからこの名がついた。以前はゴマノハグサ科に含まれていた。 花序の穂先に留まったトンボ。秋の使者の訪れだ。 後ろにはサワアザミ(沢薊)。 |
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エゾノシモツケソウ(蝦夷下野草:バラ科) (Filipendula yezoensis) 綿飴に似た花穂をつける。本州のシモツケソウに比べ、葉の切れ込みは浅い。 下野とは栃木県の古名であるが、更に蝦夷がつくと「伊勢日向」(訳の分からないこと)になる。 |
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(雨竜沼湿原河骨池から暑寒別岳を望む) | |||||||||||||||||||||||||||||||
雨竜沼湿原で期待していた花があった。エゾゼンテイカ(蝦夷禅庭花)だ。ニッコウキスゲの仲間で、ここには大きな群落がある。その花が風に揺れる様をみたかったのだが・・・北海道の7月の異常な暑さで既に花は終わり、1株も見ることができなかった。ここ数年、こうした傾向が続いているという。明らかに気候変動がここでも起きている。代わりにと言っては何だが、6月初めに佐渡島で見た近縁種のトビシマカンゾウ(飛島萱草)を紹介。池の周囲で咲く様を想像されたい。 (佐渡市大野亀) |
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ペテガリ岳から下山後、神威岳に登る予定であったが、疲労でギブアップ。代わりに三大湿原の一つ、霧多布湿原へ向かった。 |
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釧路と根室の間にある霧多布湿原は、名の通り、霧がタップリと海から流れてきて湿原を覆う。乾燥しやすい海岸地帯にもかかわらず草花はこの霧でしっとりと潤う。霧多布岬はウニ漁で有名だが、最近はこのウニや貝を求めて、野生のラッコが住み着いている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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バアソブ (婆そぶ:キキョウ科) (Codonopsis ussuriensis) 花の内側にそばかすのような斑点がある。そばかすのことを長野の方言でソブという。婆さんがいれば爺さんもいるはずで、ジイソブ(爺そぶ)はツルニンジンのこと。 ツルニンジン 花はバアソブよりやや大きい。 (雨竜沼湿原) |
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釧路で宿を取り、ウニやイカ、イクラなど魚介類を堪能した後、広大な釧路湿原を通り、(途中下車せず)サロマ湖へ向かった。サロマ湖とオホーツク海を分ける長大な砂丘湿原「ワッカ原生花園」で植物群を探す。昔は海とつながっていなかったサロマ湖だが、人の手によって海への開口部できたことで、ホタテ貝やカキなどの豊かな漁場になった。 |
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9年前、道東の山々(雌阿寒岳、斜里岳、羅臼岳)に登った時、小清水原生花園に立ち寄った。ハマナスとともにエゾスカシユリが満開で、オホーツク海からの風に揺れていた。ワッカ原生花園はエゾスカシユリの最大の群生地であるが、今回は時期が遅かったので、残念ながら会えなかった。その近縁種であるスカシユリ(透百合)は佐渡島や東北の沿岸部に分布する。下の写真は7月初め、青森県の種差海岸を訪ねたときのもの。 |
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最後までご覧いただきありがとうございました。
★新刊ご紹介: 「うめしゅんの世界花探訪」
梅沢俊氏が昨年12月に北海道新聞社から出版されました。青いケシを含む世界の花々と日本各地の希少種を掲載しています。
今回の花便りで取り上げたカムイビランジも本書に触発されたものでした。映像のきれいさはもちろん、軽妙なコラムも秀逸です。
画像をクリックすると拡大します。 ご注文は書店か北海道新聞社まで。 (税抜き2,200円) |
★新刊ご紹介: 「ヒマラヤ植物記 Ⅰ、Ⅱ」
4月に亡くなった吉田斗司夫氏の遺作となりました。彼がこれまで花を求めて歩いたネパールやブータンなどヒマラヤ各地の記録です。
旅行記としてだけでなく、現地の人たちとの交流、トレッキングの状況など、これからヒマラヤで花探索を行おうとする人には必携の書です。
画面をクリックすると拡大します。ご注文は書店か平凡社まで。 (各4,180円税込) (注:9月末までなら2冊同時注文で7,000円で買えます(税・送料込み) 注文書はここをクリックしてください) |
★予定変更: 演能「山姥」が延期になりました
社中で新型コロナに感染された方があり、また急増している感染状況を鑑みて春綱会能発表会が来年5月1日(日)に延期となりました。
予定されていた方には申し訳ありませんが、ご理解の程、よろしくお願いいたします。なお、会場は変更なく、国立能楽堂です。
この間、さらに稽古を積んで万全の舞台を務めたいと思います。期日が近づきましたら、またご案内を差し上げます。
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2021.9.7 upload
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