舞囃子「春日竜神」のご案内
昨年に引き続き「竜」を舞います。昨年は亡くなった母への追悼の意もこめて「竜女」の舞でしたが、今年は勇壮な竜王、それも八体の竜を示現した八大竜王です。
10分ほどの短い舞台ですが、舞台上を縦横無尽に走り回ります。
日時 | 2012年11月18日(日) 午前10時半から (私の出演は午後3時ころになります) |
場所 | 東京都新宿区矢来町60 矢来能楽堂 地下鉄東西線神楽坂駅2分、都営大江戸線牛込神楽坂駅5分 |
地図 | 下の図、またはここをクリック |
演能時間 | 約10分 |
番組表 | ここをクリック→(アクロバットリーダーが必要です) |
ご注意 | 入場は無料です。 写真を撮る際はフラッシュやストロボをを焚かないでください。 ドレスコードはありませんので、気楽な服装でおいでください。 いつ入場していただいても結構ですが、上演中に入場する場合は周りの方にご配慮ください。 |
その他 | 今回は12時ころから社中の方による能「半蔀(はじとみ)」が上演されます。源氏物語の「夕顔」がテーマの優雅な能です。お時間があれば合わせてどうぞ。 |
あらすじ 鎌倉時代の高僧、明恵上人(紅葉で有名な京都栂ノ尾の高山寺の開祖)は、仏跡を訪ねるため唐(中国)や天竺(インド)に渡ろうと決意し、奈良の春日大社に暇乞いに参詣する。すると、年老いた宮守が現れ、上人から入唐渡天の意を聞くと「上人が初めて春日大社に詣でたときは、釈迦の説法さながらに人は言うに及ばず鹿までも膝を折って上人を礼拝したではないか。そんな高貴な上人が今更唐や天竺に行きたいと言うのは解せない。それでも天台山参りたければ比叡山へ行けばいいし、五台山へ行きたければ吉野山があるし、釈迦が説法した霊鷲山を訪ねたいのであれば、この三笠山に参ればよい。今や奈良には衆生済度のために春日大社を中心に大寺がいくつも建立されているのだから」と諭すと、明恵上人も「そこまでおっしゃるのならこの度の入唐渡天は思いとどまりましょう」。宮守は続けて、「もし、少しでも不審に思われているのなら、今夜、釈迦の誕生から入滅までの一部始終をこの三笠山に映してみせましょう。実は私は春日明神の使いの時風秀行なのだ」、と言って消えてしまう。 夜半、大地が鳴動して、人々が驚いていると、竜王たちが現れ、釈迦の説法を聞く光景が展開される。そして、竜が空高く飛んだり、地に潜ったりするなか、釈迦の母親、摩耶夫人の誕生から、釈迦の説法、そして入滅までの光景が眼前に映し出される。竜王が上人に入唐渡天のないことを確認すると猿沢の池の水を蹴立てながら消えてしまう。 (舞囃子では後段の竜王の出現場面から始まります。下の謡曲を参照してください) |
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解説 下本となったのは「春日権現験記絵」の「巻十七と巻十八」。春日明神の神徳を称えた説話です。詳しくはここをクリック。 この能は、昨年の「海人」もそうでしたが、前半の宮守(前ジテ)と後ジテの竜王が直接関係がないという前後独立の能です。前ジテが後ジテになることが能の一般的な筋ですが、少数派です。 曲の趣旨は「ここ奈良には今や、釈迦の仏跡が全部そろっている。三笠山は霊鷲山だし、鹿野苑はサムラートである。釈迦入滅後はこの奈良が仏教の中心だ」といっています。なんとまあ、思い上がったことでしょう。当時は、神仏習合で本地垂迹(日本の神々は、本来インドの仏たちが生まれ変わったものである)と言う考えで、春日大社の祭神 武甕槌命(タケミカズチノミコト)も不空絹索観音(ふくうけんさくかんのん)が垂迹したものでした。 これをひっくり返して、「日本の神がインドの仏を代理する」にしたわけですから、気宇壮大というか、ドンキホーテというか・・・。第2次大戦前の日本でもそういう風潮が広まりましたが、人民を苦しめ、国難を招く結果に終わりました。 尖閣諸島問題でもそういった方向に行かないことを願います。 |
(金春欣三師)春日大社御社上りの儀で フォトグラファー松村のポートフォリオブログから拝借 |
八大竜王 仏教成立以前からあったインドの古い神々で、仏教に帰依し、仏教の守護神となった八部衆(天衆、龍衆、夜叉衆、乾闥婆衆、阿修羅衆、迦楼羅衆、緊那羅衆、摩睺羅伽衆)のひとつで、梵天、帝釈天などの天衆に次いで高い位置にいます。 蛇を神格化したもので、水中に棲み、雲や雨をもたらすとされるます。また、釈尊の誕生の際、灌水したのも竜王でした。能では人面人形で冠上に龍形を表す冠を着けます。 では「八大竜王」とは、
謡では、摩那斯竜王と優鉢羅竜王は登場しません。この他にも竜王は… 婆修覇竜王、目眞隣陀竜王、威光竜王、雷冠竜王、帝釈杖竜王などなど、月曜竜王、大声竜王などもいます。 なんといっても百千眷属ですから。 そのほかの登場神々は… ・妙法緊那羅(きんなら)王、持法緊那羅(きんなら)王…音楽神で美しい声で歌う。半人半獣でケンタウロスと類似。 ・楽乾闥婆(がくけんだつば)王、楽音乾闥婆(がくおんけんだつば)王…帝釈天の眷属の音楽神。 ・婆稚阿修羅(ばちあしゅら)王、羅喉阿修羅(らごあしゅら)王…古代インドの戦闘神。帝釈天と戦ってもいつも負けます。 八部衆にはこの他、夜叉(やしゃ)、迦楼羅(かるら)、摩睺羅伽(まこらが)がいます。 興福寺の八部衆立像 |
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昨年舞った「海人」の舞囃子ビデオ
(画像をクリックするとYou Tubeで視聴できます)
矢来能楽堂 地図 |
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謡詞(舞囃子の部分のみ)
地謡 | 時に大地震動するは、いかさま下界の竜神の出現かやと、人民(にんみん)一同に、雷同せり。 |
(囃子方の早笛) | |
地謡 | 時に大地震動するは、下界の竜神の参会か。 |
シテ | すわ、八大竜王よ。 |
地謡 | 難陀(なんだ)竜王 |
シテ | 跋難陀(ばつなんだ)竜王 |
地謡 | 娑伽羅(しゃから)竜王 |
シテ | 和修吉(わしゅきつ)竜王 |
地謡 | 徳叉迦(とくしゃか)竜王 |
シテ | 阿那婆達多(あなばだった)竜王 |
地謡 | 百千眷属引き連れ、引き連れ、平地に波乱を立てて、仏の会座に出来して、み法を聴聞する。 |
シテ | そのほか妙法緊那羅(きんなら)王 |
地謡 | また、持法緊那羅(きんなら)王 |
シテ | 楽乾闥婆(がくけんだつば)王、 |
地謡 | 楽音乾闥婆(がくおんけんだつば)王 |
シテ | 婆稚阿修羅(ばちあしゅら)王、 |
地謡 | 羅喉阿修羅(らごあしゅら)王の、恒沙(ごうしゃ)の眷属ひき連れ、ひき連れ、これも同じく座列せり。 竜女が立ち舞う波乱の袖。竜女が立ち舞う波乱の袖。白妙なれや、和田の原の、波浪は白玉。立つはみどりの空色も映える海原や。沖行くばかりに、月のみ舟の、佐保の川面に、浮かみ出ずれば、八大竜王。 |
(舞働き) | |
シテ | 八大竜王は八つの冠を傾け |
地謡 | 所は春日野の。月の三笠の雲に上り。飛火(とぶひ)の野守も出でて見よや。 摩耶(まや)の誕生、鷲峯(じゅぷう)の説法。双林の入滅。悉(ことごと)く終りてこれまでなりや。明恵上人さて入唐(にっとう)は。 留まるべし。渡天(とてん)は如何に。渡るまじ。さて仏跡は。尋すぬまじや。 尋ねても尋ねても、この上嵐の雲に乗りて、竜女は南方に飛び去り行けば。 竜神は猿沢の池の青波、蹴立て蹴立ててその丈(たけ)千尋(ちひろ)の大蛇となって。天に群り。地にわだかまり、池水を返して、失せにけり。 |