舞囃子竜田

昨年(2008年)は能「杜若」で花の精を演じましたが、今年は舞囃子です。秋の女神である「竜田姫」を神楽で舞いました。幣(ぬさ)を振るともみじ葉が風に舞散る・・・そんな風情を出すつもりでしたが・・・・

あらすじ
諸国行脚の僧が竜田明神に参詣するために竜田川を渡ろうとすると、巫女が呼び止めて「氷の張った川を渡ると神と人の中が絶えてしまう」と警告する。古歌の例を持ち出したり、「薄氷を踏む」の語源を語ったりした後、僧たちは巫女について、川を渡ることなく境内に入る。竜田明神の謂れを語るうちに、巫女は自分は「竜田姫」と名乗り、社殿の中に消えてしまう。僧たちが夜すがら読経をしていると、社殿が揺れ動き竜田姫が現れ、神社の来歴を語り、舞う。(最後の祝詞の部分が舞囃子になっています。下の謡曲を参照ください)
 
解説
神社の来歴や由来を語る能には、「弓八幡」「竹生島」「加茂」などがありますが、大体「国家安全・人民安寧」を寿ぐ天皇賛歌の曲です。
「高砂」「老松」「養老」などのめでたい曲や神が出てくる曲は「初番目もの」または「脇能」と呼ばれ能では一番先に演じられます。しかし、これは男神の場合で、女神は「四番目物」になり、能の世界では男女均等ではないようです。女流能楽師がもっと増えて女神の地位向上を図って欲しいものです。
男神が舞う「神舞」はテンポの速い曲ですが、「神楽舞」は女神が舞う舞で、最初は緩やかなテンポで始まり、徐々にテンポを上げ軽快になり、最後はかなり忙しくなります。神楽舞は「竜田」のほか、「三輪」(三輪明神)、「巻絹」(音無天神)三曲しかありません(「葛城」で大和舞を舞うときには神楽舞の一部が入ります)。

舞囃子(胡蝶)
竜田川
現在の竜田川は奈良県西部生駒山地の東麓(平群町)を源として法隆寺のある斑鳩町で大和川(1級河川)と合流する小さな川ですが、古代は現在の大和川を竜田川と呼んでいたようです。竜田川に沿って竜田公園が整備され、紅葉の名所となっています。

竜田明神
奈良県三郷町に龍田大社、同斑鳩町に龍田神社があります。龍田大社の祭神は天御柱命・国御柱命で旧官幣大社として格が高く、「風の神」としても有名。一方、龍田神社は法隆寺の地主神社として隣接して創設され、祭神は龍田比古龍田比売の男女二神でしたが、明治の神仏分離で龍田大社の摂社(一種の養子縁組)となり、龍田大社の主神を祭ることになりました。能に出てくる「竜田明神」は龍田比古・龍田比売を「龍田大明神」と呼んでいたことや社紋が紅葉であることから、龍田神社のこと。能に詠われる「滝祭り」は、もともとは伊弉諾・伊弉冊(いざなぎ・いざなみ)の二神が天逆鉾で下界を探り納めた水気神を祭るものであり、龍田比古・龍田比売に関係する祭りであったが、どういうわけか現在では龍田大社で行われている。
            (画像はeo blogより拝借)

龍田姫

五行説に基づいて、春の「佐保姫」、夏の「筒姫」、冬の「白姫」と並んで龍田姫は秋を司りますが、「たつ」→「裁つ」や紅葉が色を「染める」ことから裁縫・染色の神ともなっています。
    
             (代々木公園 2005年11月)

結果は・・・大失敗
初めての神楽、基本どおりに舞うべきだったのでしょうが、少し欲を出してしまい(つまり、格好よく見せようと意識したため)、そちらに気が行ったためか、途中で振り付けを忘れるという体たらく。
神楽舞の丁度中ほどで「ドン」と足拍子を踏んだとたん、頭の中が真っ白に。「私は誰、ここはどこ」状態で次に何をするのか思い出せなくなりました。ともかく体を動かそうとあらぬ方向に、関係ない型付け2,3歩動いたとたん、思い出しました。その間2〜3秒。(地謡の先生方も一瞬青ざめたそうです) その後もヒヤヒヤで、何とか舞い終えることができましが、やはり、私の慢心を諌めに「歌舞の菩薩」が出現されたのです。
「歌舞の菩薩」の厳しい戒め、身と心に染みました。これからは慢心せず、気負わず、謙虚に舞うよう、誓います。

(写真ができましたら掲載します。しばらくお待ちください)

謡詞(舞囃子の部分のみ)

シテ しかれば当国宝山に至り
地謡 天地治まるみ代のしるし。民安全に豊かなるもひとえに当社のおん故なり。
シテ 梢の秋の、四方の色。
地謡 千秋のみ影、目前たり。
年ごとにもみじ葉流る竜田川。港や秋の泊りなる、山も動ぜず海辺も波静かにて
楽しみのみの秋の色。名こそ竜田の山風も静かなリけり。
しかれば代代の歌人も、心を染めてもみじ葉の、竜田の山の朝霞。
春は紅葉(もみじ)にあらねども、ただ紅色に愛でたまえば、今朝よりは竜田の桜色ぞ濃き。
夕陽や花の時雨(しぐれ)なるらんと、詠みしも紅に心を染めし詠歌なり。
シテ 神南備(かみなみ)の、三室の岸やくずるらん。
地謡 竜田の川の水は濁るとも、和光の影は明らけき、真如の月はなお照るや
竜田川、紅葉(もみじ)乱れし跡なれや。いにしえは錦のみ、今は氷の下紅葉(もみじ)。
あら美しや色色の、紅葉襲(もみじがさね)の薄氷。
渡らば紅葉も氷も、かさねて中絶ゆべしや。いかで今は渡らん。
シテ さるほどに夜神楽の
地謡 さるほどに夜神楽の、時うつり頃去りて、宜禰(きね)が鼓(つづみ)も数至りて、
月も霜も白和幣(しらにぎて)、ふり上げて、声澄むや。
シテ 謹上(きんじょう)
地謡 再拝
(神楽舞)
シテ ひさかたの月も落ちくる滝まつり。
地謡 波の竜田の
シテ 神のみ前に
地謡 神のみ前に、散るはもみじ葉
シテ すなわち神の幣(ぬさ)
地謡 竜田の山陰の、時雨降る音は
シテ さっさっの鈴の声
地謡 立つや川波は、
シテ それぞ白木綿(しらゆう)
地謡 神風、松風、吹き乱れ吹き乱れ、もみじ葉散り飛ぶ木綿附鳥(ゆうつけどり)の
み禊(みそぎ)も幣も、ひるがえる小忌衣(おみごろも)。
謹上再拝、再拝、再拝と山河草木国土治まりて、神はあがらせたまいけり。