秋、赫赫

四季にはそれぞれ固有の色があります。古代中国の五行説では、四季と方角・色を組合せ、春=東=青、夏=南=赤、秋=西=白そして冬=北=黒をあてています(四季では「五」行に満たないので、土用=中央=黄を加えています)。また、動物をあてて、青竜、朱雀、白虎、玄武(亀)、そして麒麟(きりん、黄麟とも)。
しかし私の感覚では、春=(草木が萌え出る)緑、夏=(空と海の)青、秋=赤そして冬=(霜や雪の)白です。

夕焼け、赤とんぼ、紅葉などの自然から、秋祭りの赤提灯、獅子舞の赤い頭、天狗の赤い面など人々の暮らしまで、いたるところに赤が溢れています。もちろん花々も、そして木の実も葉も赤を纏います。冬を前に次の世代に命をつなぐサインカラー。今回のタイトルは「赫赫(かくかく)」、赤の4重連です。

彼岸花(ヒガンバナ)
 (曼珠沙華)

秋のお彼岸の頃に咲くから「彼岸花」ですが、今年は夏が暑かったため、10日ほど遅く見頃となりました。

別名の曼珠沙華は、仏教(法華経)では天井の白い花なのですが、この赤い花はどちらかと言うと”不吉”な花と見られがちです。花の色・形が「地獄の業火」を連想させるからでしょうか。それとも、昔飢饉のとき、この花の球根(毒があります)を食べたのですが、大勢の人が死んでいった飢饉を思い起こさせるからでしょうか。

彼岸花の群生地として埼玉県日高市の巾着田が有名ですが、ここが群生地になったのは戦後のこと。高麗川の洪水で流れ着いた球根が繁殖しました。

(日高市 巾着田10月初旬)

白花やオレンジの彼岸花もありますよ。

                      丸葉草(マルハルコウソウ)
別名
カーディナルクライマー 

別名の通り、塀や垣根をつたのようによじ登ります。帰化植物ですが、青高泡立草と違って、控えめな花です。

 (世田谷区八幡山 9月中旬)
ルコウソウ

秋の山を彩る大半は赤や朱色の木の実たち。それは自分たちの子孫を残すために取っている壮絶な捨て身の戦略。花の時は目立たずに外敵から身を守りながら力を蓄え、身ごもって月満るとあでやかに変身して、不倶戴天であった鳥たちをおびき寄せ、そしてその果実を鳥たちに与える代わりに自分の子孫(種)を広く散布して種の存続を図る----自然の営みです。古代神話やキリスト教の聖書にも「死ぬことで永遠の命を得る」喩があります。
しかし、その環を人間が断ち切ろうとしている・・・・彼らの言う開発や進歩(森林破壊や原発)が何を行ったか。説明はいらないでしょう。
 
裏白七竈(ウラジロナナカマド)   (磐梯山 頂上付近 背後の湖は桧原湖 9月下旬)

   
 裏白七竈の花穂 (秋田駒ケ岳 7月初旬)

まだまだ沢山の赤い実があります。 ペンダントやブローチのようですね。
 秋茱萸(アキグミ)    (磐梯山南面 9月下旬)  吊花(ツリバナ)    (裏磐梯五色沼 9月下旬)
 
  小葉の莢?(コバノガマズミ) 
 (磐梯山南面 9月下旬)

 錦木(ニシキギ)
  (蓼科山スズラン峠下 11月初旬)

赤物(アカモノ) (八幡平三ツ石山 8月下旬)
実が赤いからアカモノという名がつきましたが、花は白。  
  (岩手・秋田県境 乳頭山 7月初旬)
  深山樒(ミヤマシキミ)
  
樒(シキミ)は別名佛前草とも呼ばれ、密教や葬儀に用いられてきました。このため当て字で梻(木偏に佛)とも書きます。木偏に神の榊(サカキ)と対です。樒はモクセイに近いシキミ科の植物ですが、深山樒はミカンの仲間です。樒の実は茶褐色ですが、深山樒は深紅です。ただしどちらも有毒で、食べると痙攣を起こし死亡することもありますのでご注意ください。鹿も食べないので、大群落になることがあります。高尾山にもたくさんあります。

(岩木山岳温泉上 9月上旬)

ルビーやサンゴばかりが赤い色の宝石ではありません。
ガーネット(1月の誕生石)やトルマリン(10月の誕生石)も深紅ではありませんが、趣のある赤い色です。また、サファイア(9月の誕生石)やトパーズ(11月の誕生石)でも赤色(ピンク)がでます。
     
      ガーネット           ピンクトルマリン        ピンクサファイア           ピンクトパーズ

ピンクの宝石の色に近い秋の花は… 
         八幡平薊(ハチマンタイアザミ)
           (裏岩手 大深岳 8月下旬)

峰薊(ミネアザミ)

四葉鵯(ヨツバヒヨドリ)  

秋の七草のひとつ「藤袴(フジバカマ)」の仲間です。
(裏岩手 諸桧岳 8月下旬 背後の山は岩手山)

渡りをする蝶で有名な「アサギマダラ」はこの花の蜜が大好物です。秋から冬にかけて越冬のため、遠く沖縄や台湾まで移動します。
(クリックで拡大)
アサギマダラ(岩手県網張温泉)


ピンクに青色が入ってくると紫色になります。紫色の宝石ではアメジスト(2月の誕生石)が有名。昔、ワシントンDCのスミソニアン博物館で紫水晶の原石を見たことがありますが、スズメ蜂の巣のような岩の中に六角柱の結晶(水晶)が何本もたっていました。日本のいたるところで産出しますが、山梨県は特に有名です(印鑑の生産量は日本一)。

          アメジスト       紫水晶の原石

秋の山では・・・・
    沢桔梗(サワギキョウ) 釣鐘人参 (ツリガネニンジン)
 (画像をクリックすると拡大します)

                     細葉擬宝珠(ホソバギボウシ)
                       (裏岩手 三ツ石山 8月下旬)

さらに青味が強くなると・・・

    
 サファイア(9月の誕生石)     タンザナイト(12月の誕生石)    トパーズ(11月の誕生石)   アクアマリン(3月の誕生石)  

サファイアとルビーと同じ組成(コランダム)ですが、コランダムの内、赤いものをルビー、それ以外をサファイアと分類しています。秋の山でこの色の花は…
        深山竜胆(ミヤマリンドウ)

スターサファイアなど白い筋の入った宝石がありますが、竜胆はスターのように開きます。もっともなかなか開花しない(貞操の鏡のような)御山竜胆もありますが…。このほか、立山竜胆、春竜胆、蔓竜胆、筆竜胆など多数あり、春から晩秋まで山路をにぎわします。

今年のNHK大河ドラマは「平清盛」ですが、これに対抗する源氏の紋が「笹竜胆」。ただし、自然界には笹竜胆はありません。
        
源氏の紋所

(裏岩手 三ツ石山 8月下旬)

 
御山竜胆(オヤマノリンドウ) 蔓竜胆(ツルリンドウ)
(安達太良山 9月下旬) 花弁を開いてくれました。
珊瑚玉のような赤い実をつけます。

 (裏岩手 大深岳 8月下旬)

        岩桔梗(イワギキョウ)    
 
   (八甲田山 大岳山頂  9月上旬)

ほとんどの宝石は鉱物ですが、珊瑚のように生物由来の宝石もいくつかあります。その代表格が真珠(6月の誕生石)。貝に偶然入った異物を外套膜が分泌する粘液で包むことで真珠層ができます。母貝となるのはアコヤ貝、白蝶貝です。黒真珠は黒蝶貝が作ります。御木本幸吉が養殖に成功して以来、現在はほとんどが養殖もの。日本が世界の90%を生産しています。

  黒真珠

では山の真珠は・・・・ありました。
     白玉の木(シラタマノキ)  
  岩高蘭(ガンコウラン)   

(安達太良山 9月下旬)

蘭の名が付いていますがツツジ科の低木。夏山で出会っているのですが、花を見たことがありません。実は甘くておいしいです。食べられる宝石です。そういえば、かのクレオパトラも真珠を酢で溶かして飲んだとか。
左の白玉の木のすぐ隣に生えていました。


そのほかの生物由来の宝石として「琥珀(コハク)」があります。松脂などの樹脂が長時間かけて石化したもの。バルチック海やロシアが産地です。サンクトぺテルスブルグのエカテリーナ宮殿にある「琥珀の間」は有名。

      琥珀(アンバー)

秋の山では黄色い実はあまり見かけませんが…花ならば
  
薬師草(ヤクシソウ) 秋の麒麟草(アキノキリンソウ)
(八甲田山 仙人岱 9月上旬

そして最後に葉の色と同じ緑色の宝石。

    
   エメラルド(5月の誕生石)       ペリドット(8月の誕生石)(和名: かんらん石)

秋の山野では・・・・残念ながら熟していない実を除いては、緑i色の花や実はありません。

七竈の若い実
 (裏岩手 大深岳 8月下旬)

でも、花や実に欠かせない水を貯めている池や湖はエメラルド・グリーンです。
 裏磐梯 五色沼(毘沙門沼)
  
 中禅寺湖 松ヶ崎
 
何か大事な宝石が一つ抜けていますね。そう、ダイアモンド(4月の誕生石)です。
ダイアモンドのような透明な花や実は地上にはありませんが、綺麗な花や実を見る
あなたの瞳がダイアモンドかもしれません。「目が輝く」って言うでしょう。

(注記: 宝石類のイメージはジュエリー宝石事典http://kobo-angel.com/jewelryguide/から拝借しました)


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木佐聡希さんという写真家(歌人でもあります)がいらっしゃいました。昨年9月にパーキンソン病で亡くなるまでに身近にある野の花をレンズに取りこんでいらっしゃいました。歌人の心根と病への向き合いからでしょうか非常にリリカルな、そして存在感のある映像が納めてあります(下の写真をご覧ください)。写真は対象を写し取るものであると同時に自分(の内面)を写すことができることをこの写真集は語っています。
(病と対峙する彼女の矜持が表されているように思えます)
木佐聡希 写真集「花想」より

木佐聡希 写真集『花想』の詳細については以下のURLをご参照ください。1冊1890円です。
http://tabushi.cafe.coocan.jp/111005kisa-saki-kasou-PDFVersion.pdf

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