能「葵上」の注釈

「葵上」の典拠について
「葵上」が源氏物語の「葵」(第9帖)と「若菜下」(第35条)との合成と考えるのは以下の理由から。

(「葵」が典拠)
・臣下が「左大臣のおん息女 葵上」と述べる。
・「葵」での車争いでの恨みを「やれ車」「忍び車」「破れ車」と六条御息所の網代車を連想させている

(「若菜下」が典拠)
・怨霊が「われ世にありしいにしへは・・・」と語り、死霊である(「葵」では生霊。(「世にある」を皇太子妃時代とする説もあり)「若菜下」では死霊として登場)

・葵上は源氏が六条御息所を関係する前から正妻であり、「うわなり打ち(前妻による後妻打ち)」に当たらない。(紫上は葵上の死後正妻になったのであり、六条御息所が正妻になる話もあったため「うわなり」になる)

・「若菜下」で、源氏が紫上と、昔関係した女性たちについて語らったとき、六条御息所について「思いつめる人だった」といった後で六条御息所の怨霊が現れているが、それを能では「昔語りになりぬればなおも思いは増鏡」と語らせている。